月下の一族6





 ギャッ…ギャッ、クァア…クァア…

 老人が手招きしているように木々が枝葉を揺らす音に、烏の鳴き声が混じる。

 

 黒羽の双子だ。 (そうだよ)
 でも揃っていない。片割れだけでここに来るのは珍しい。 (そうだね)
 魔女にせっつかれたか。 (そうなんだ)
 だが、あの魔女はここにはいない。 (…なんだって?)

 

 屋敷に近づくにつれて木々の樹齢は高くなる。老木たちは烏を乗せてザワザワと枝葉を揺ら
すのを止めない。










 久方ぶりに訪ねた魔女の屋敷は、昼間だというのに背景には夜を背負い、稲光がその闇を
引き裂くような、いかにもな幻影が見えてしまうほどの、おどろおどろしさを持っていた。森の
木々が作っていた空気よりもなお暗い。

 「いらっしゃらない?」

 意外そうな寺井の声に、「そら、言ったではないか」と烏たちの声がやかましくかぶさる。

 「呼ばれたんじゃ、なかったのかな?」

 夢を読み間違えたか、という快斗の懸念は、魔女の屋敷には酷く似合いの風貌の、背を丸
めた小柄な執事がすぐに消してくれた。

 「いえ、黒羽の方々がおいでになることはうかがっております」
 「しかし、お出掛けでいらっしゃる…?」
 「おいでになるのは、夜になるだろう、とのことでございました」










 「…しかしあのお嬢様は、寺井には予想もできないところへ行かれなさる」 
 「はは、俺も意外」

 待つための部屋を用意するとも言われたが、快斗には時間がおしい。自分から紅子の外出
先へ訪ねることで、少しでも早く兄のもとへ帰れるのなら、そうしたかったのだ。

 「…ぼっちゃま、着きました」

 寺井の声に、後部座席に身を沈めていた快斗は外を見る。曇りガラスの向こうでは、そういう
時間なのだろう、花壇に座り談笑する者、ボールを蹴る者、走る者…靴を履き替え門の外へ
向けて歩く者。それら全てに、快斗は懐かしさを感じない。月光の射さないその景色は、快斗
にはまるで他人のものだった。










 ―――高校。