月下の一族2




 キッドが抱き込んだシーツから、快斗は力を使って、もぞりと腕だけを出す。そうしてキッドの
肩を、ぺちぺちと叩いて、起きあがりたいことを伝える。快斗を抱くとき、キッドはいつも力を込
めすぎてしまうから、快斗は兄の腕の中から抜け出すときはいつもこうしていた。
 快斗に被さるようにしていたキッドが、それに気づいて腕に込めていた力を緩めると、快斗は
兄の腕から抜け出して上体を起こし、そのまま、今度は快斗の方から兄に抱きつく。兄の胸に
顔を押しつけて、すん…、と息を吸い込み、兄から血の匂いがしないことがわかると、快斗は
やっと緊張を解いた。 

 「良かった。怪我はしてないみたいだな。」 
 「当然☆お前こそ、具合は?」 
 「ん、いいよ。この前の満月から、まだそんなに経ってないし。」 

  



 ―――――黒羽の血統は月下に棲む。 


  
  

 彼らは、人間と同じ姿をしているが、その生活形態は、人間とは大きく違っていた。 
 歳はとらず、永い、永い時を生きる。 
 ある時点まで成長を遂げると、そこで時を止める。成長過程のどの時点で時を止めるかには
個人差があるが、キッドと快斗の身体が成長を止めてからは、すでに10年ほどが経ってい
た。 
 どういう血かと問われれば、ヴァンパイアが近いのかもしれないが、違うところもあった。陽の
光を浴びても灰になることはなく、何より血を求めない。 
 糧とするのは、月光。 
 月は満ちていればいるほど、摂りこめる力は大きい。人間と同じものを口にすることもある
が、あくまで味や香りを楽しむだけで、口にしたそれらを栄養として摂りこむことはできない。そ
のかわり、月光を浴びさえすれば、常にベストな状態を保てていた。・・・・・・数十年前までは。 





 最初に気づいたのは、双子の父である盗一だった。 
 月の光が、厳密にいつの頃からかはわからないが、着実に弱くなってきていたのだ。それと
重なるようにして、一族が月から得られる力も、弱くなっていたのだった。特に快斗は、満月の
光からしか、十分な力の補給ができず、父や兄が一度とりこんだ力を分けてもらうことが、時に
は必要だった。 

 「今回の石は?」 
 「ハズレ。パンドラじゃなかった。」 

 一族の存亡に危機を感じた盗一が調べた結果、わかったことがある。 
 それは、月の力を回復させるには、ある宝石が必要であること。その宝石とは、手の平から
こぼれるほどに大きな、ビッグジュエルの一つで、その身の内にはさらに、赤い命の石を抱い
て、パンドラという名を冠せらた石であること。そして、それを月に捧げることで、月は輝きを取
り戻す、ということだった。 
 それを果たすため、盗一は怪盗をしながら宝石を探していたが、数年前に突然倒れた。盗一
が月から得ていた恩恵もまた、弱まっていたのだろう。以来、盗一は眠り続け、双子の兄が怪
盗を継いだ。 

 「パンドラじゃなかったけど、見ろよ。ほら♪」 
 「…わぁ、すごい。聖杯だろ、これ。」 

 ビッグジュエルの中には、パンドラではないが、永い時をかけて浴びた月光を、内に留めてい
るものがある。それが、聖杯。聖杯からであれば、快斗も力を摂りこむことができた。 
 兄から差し出された宝石に、快斗は口づける。石から、力が流れ込んでくるのがわかった。 
 石を、快斗が口にしやすいように支えていたキッドは、快斗の伏せられていた目が、意味あり
げに自分を見上げるのに、細く笑う。 

 「いいのか?」 
 「ん…俺じゃ多分飲みきれないもん。」 
 「それじゃ、ありがたく…。」 

 キッドは快斗と向かい合うようにして、石に口づける。 
 妖しく光る宝石は双子の微笑だけを映し、双子の瞳は、互いの存在だけを映していた。