月下の一族1




 暖炉の中に新しく薪を放る。時刻は、深夜の0時半を過ぎたところ。待たないで寝ているよう
に言われているため、本当なら、もう寝台で寝息をたてていなければいけないのだろう。 

 (怒られるかな。) 

 白い顔を暖炉の火で赤く照らされながら、快斗は思った。それでも、もうすぐ帰宅するだろう
人が、できるだけ寒い思いをしなくて済むようにと、快斗はせめて、寝室に続くこの部屋だけで
も暖かくしておきたかった。 
  
 扉の向こう、屋敷で一番広い廊下の、一番大きな窓の傍に人の気配を感じる。 

 (寺井ちゃんだ。) 

 と、いうことは。彼が、屋敷のすぐ近くまで戻ってきているということだ。寺井が窓から出迎え
る相手は、いまは一人しかいない。快斗は慌てて隣室の寝台に潜り込む。 

 カタリ。 

 扉が開く音と一緒に、外からの風と冷涼な気配が暖炉の火を揺らす。入ってきた人物は二
人。屋敷で古くから仕えている寺井と、快斗によく似た、白装束の少年。少年は鮮やかな空色
のシャツの上に、白いスーツを着ている。白い手袋で襟元の赤いネクタイを緩めながら、暖炉
に歩み寄る。先ほどまで身に着けていた白いシルクハットとマントは、寺井が大事そうに抱えて
いた。 

 「・・・・・寺井ちゃん、ココアをもらえるかな。」 
 「はい。すぐお持ちします。」 
 「二人分欲しい。」 
 「畏まりました。」 

 暖炉の火を見つめながら、少年が柔らかな口調で言うと、寺井も柔らかく応えて部屋から出
て行った。寺井の気配が、完全にこの階から消えるまで、少年は暖炉の前にしゃがみ込んで
真っ赤な熱を身に浴びる。そろそろ外の冷たい空気が、その身から剥がれたろうという時、や
にわに立ち上がって、そのまま隣室へと足を踏み入れた。 
 途端、寝台にいる快斗から、緊張した空気が発せられる。少年にはそれが可笑しかったが、
音には出さない。口元だけで笑う。ゆっくり、ゆっくりと寝台に近づいて、柔らかな布団の上か
ら、快斗を抱き込んだ。 

 「寝ていろと言ったのに。」 
 「・・・兄貴。」 

 ばつが悪そうに、快斗は布団の中から顔半分だけを出し、双子の兄であり、世間を騒がす大
怪盗でもある、キッドを見た。