出会っちゃった人たち8




 ああ、空が青い。 ここ最近の天気からは信じられないほど良い天気だ。 

 「晴れて良かったね。やっぱり日ごろの行いが良いからかな♪」 

 今日の天気よりもっと信じられないような言葉が、隣に居る黒羽から聞こえた。 





 俺と黒羽がいま居るのは、校庭のベンチ。 ずらりと並ぶ模擬店からは、少し離れた位置だ。 
本来ならば、模擬店と賑わう人々のなかに埋もれ、あまり目立たないだろう場所。 
 だが。 

 「んー・・・なんだかやたら見られてる気がする。そう思わない?コナン君?」 

 そりゃあ、そうだろう。 

 「あ、新聞でコナン君を見た人たちかな?」 

 本気で言ってそうな黒羽にため息がでる。 
 おめえ、ちょっとは自覚した方がいい。 

 「違うと思う。快斗兄ちゃんが可愛いから、みんな見とれてるんだと思うよ。」 
 「え?可愛いかな?とりあえず『キッド=俺』ってばれなければ良いや、て深く考えないでこの
姿にしたんだけど。」 

 世間一般の男子高校生が、深く考えないで女装して、ここまで完璧に化けられるものか。 疑
ってくれと言わんばかりのその態度は、完璧、挑発だと思っていいな? 

 「可愛いよ、すごく。でもすごいね!変装もできるだなんて。」 

 そこで一呼吸おいて。 

 「本当に本物のキッドみたいだね?」 

 キッドを相手にするときの、探偵の顔をして言ってやる。 

 「僕、実際にキッドに会って、顔もちらっとだけど見たことある。さっきキッドの格好してる快斗
兄ちゃんを見て思ったんだ。似すぎてる・・・てね。」 

 さあ、追い詰めてやるぜ・・・・・? 





 だが。 

 「違うよ。コナン、それは違う。」 

 しらばっくれるな、とは言えなかった。 
 思わず言葉を失うほど、そのときの黒羽の微笑は透明で、まっすぐに俺を見て言ったから。 

 「俺はキッドのことを何も知らないんだ。どんなに焦がれても、あの人のいる高みまでは遠
い。本当の意味で、キッドで在れるのは、あの人、一人だけだ。」 

 そうやって話す黒羽は、幸せそうに、誇り高く。 けれどどこか悲しげに見えて。 
 もし本当に黒羽がキッドでないのなら、こいつにそこまで言わせているキッドが羨ましく思え、
次いで胸が苦しいような感覚にとらわれた。 

 「で、でも」 

 それでも黒羽がキッドでないという確信はもてなくて、反論しようとしたが。 

 「それにね。」 

 いまの黒羽の格好には相応しい、可愛らしい少女の笑みを浮かべながら、細い指で額を突
かれてしまった。 

 「コナンが対決してるときのキッドと、俺の顔が似てたって、それは当たり前だ。俺はキッドを
知らないけれど、キッドは俺のことをすごく知ってるんだから。」 

 なんだって? 
 どういうことだ、それは? 
 俺の疑問には、意外なところから答えが返ってきた。 

 「快斗の姿は、キッドのお気に入りなのよね。」 
 「お、青子☆ ・・・・・と、白馬。」 
 「僕はおまけですか。」 

 いつの間にか俺の後ろに居たらしい青子さんが、不機嫌そうな表情で言った。 

 「お父さんの側に居ても不思議じゃない、マジシャン。キッドにしてみれば、手ごろな変装の素
材だもんね、快斗は。でも!それで快斗が疑われたことがあるんだよ。キッドの奴、本当に憎
ったらしいんだから!」 
 「そんな風に思ってくれてるんなら、俺にキッド役やらせんなよ。」 
 「いいの☆ 日ごろ姿を提供してあげてるんだから、こんなときくらい、キッドの方に姿を提供
させてやるの!」 
 「お前の理屈は良くわかんねー☆」 
 「ふーんだ・・・あ、快斗、もうすぐお父さん着くって♪」 
 「げ☆ 来るのかよ、警部?」 
 「なによーその嫌そうな顔は?」 
 「別に〜?」 

 延々と続きそうな二人のじゃれ合いに、なんとなく自分が取り残された気がして面白くない
が、とりあえずは放っとく。 いまのうちに考えを整理しないと、思考がどんどん追いつけなくなり
そうだ。 
 なんかいま、いっぺんに色んな情報を得たんじゃないのか、俺は? 
 黒羽がキッドのお気に入りだと? で、黒羽もキッドのことを相当好きみたいな感じだった
ぞ? 
 あ、なんだ、この感じ。 すげえ嫌な感じだ。 





 ―――――その感覚が、あのキッドに意外にも執着なんて『特別』っぽいマネをされてる、黒
羽に向けてのものなのか、黒羽にあんな表情で語られてるキッドに向けてのものなのかは、わ
からなかった。