怪盗部屋2




 「・・・なるほどね」 

 ここは工藤邸の2階・・・・・の、とある客間。室内をぐるりと見回してつぶやく。 
 部屋の照明は床のところどころに置かれた、淡い光を放つライトのみで、窓は人が一人入れ
るかどうかくらいの大きさの天窓が一つのみ。そこから月の明かりが入り、室内を青白く照らし
ていた。 
 が、それだけの明かりでも、俺には充分だ。さきほど、あの天窓から入ってくる時も、何の危
なげもなく着地することができた。 
 この部屋にはドアはあるが、部屋の中からでないと開けられないようにできていた。優作さん
から渡された鍵は、天窓のものだった。 そのドアの向こうで優作さんが呼んでいる。 

 「快斗くん、入れたかな?ここを開けてもらえるかい?」 

 優作さん一人の気配しかないことを読んで、ドアを開ける。 

 「さすがだね。着地音も気配もしなかったよ。・・・・それで、どうかな?この部屋の感想は?」 
 「・・・すごいですね。まさにキッドのための部屋だ。家具も親父好みのアンティーク調のもので
そろえてある。ただ」 
 「うん?」 
 「キッドが消えて、何年も使われてなかったにしては、綺麗なのが不思議なんですが?」 

 事実、室内はほこりもクモの巣もあまりなかった。 
 これじゃ名探偵の部屋より綺麗かも。 
 そう思っても口には出さず。優作さんの反応をうかがおうとしたけど、優作さんは顎に手をあ
て、かの名探偵のように考え込むふりをした後・・・。
 
 「ふーむ、この部屋にだけ小人たちでもいるのかな?」

 ・・・などと言われてしまった。 

 怪しい。思いきり怪しい。 
 が、部屋のそこかしこに残る親父の気配の魅力には逆らえない。クラスには魔女もいること
だし、きっと小人もいるんだろう・・・なんて強引に自分を納得させることにした。
 
 (そういえば)

 大事なことが一つ。 

 「名探偵は、この部屋のことは知ってるんですか?」
 「いや、教えていないし、気づいてもいないだろうね」 
 「・・・・・・・本当に?」 

 確かに、この目の前の、一癖も二癖もある世界的人気の推理作家と、親父が二人して隠して
いたのなら、名探偵でも見つけるのはまず無理だろう。 
 が、なんとなく優作さんの場合、「内緒だがね」とかなんとか言って、息子に秘密をばらしてし
まっていそうにも思える。ハワイで色々教えていた時と同じようなノリで。
 たとえ聞いた方が、それを『よくある、子ども向けの作り話』として受けとろうとも。 
   
 「まあ、まあ。そんなに心配なら、中からこちら側へ出てきてみるといい。新一が、ここに自分
からすすんで来ようと思うかい?」 

 ふふふ、と面白そうに笑いながら、優作さんが手招きするので、言われたとおりドアの向こう
に出てみれば・・・・・キッドの部屋の中からはドアに見えたそれは、ある部屋の壁になってい
て、さらにその壁を、ある分野の本を限定して収める本棚が綺麗に隠してしまった。 
  
 「もともとここは、わたしの仕事部屋だったんだよ。しかし新一がわたしの書く話を読みたがる
ようになってね。そのうち、わたしが部屋に居なくても、勝手に入って書きかけの原稿やら資料
やらを漁るようになってしまったんだ。それで、この部屋の秘密をどうやって守ろうと必死に考
えて、急遽、音楽室へと変えたんだよ」 

 思わず、その時の優作さんの慌てっぷりを想像して、笑みがこぼれてしまった。
 優作さんの言うとおり、部屋は一般家庭にはまずないような立派な音楽室になっていて、あ
の壁を隠した本棚には、楽譜が綺麗に収まっていた。あの名探偵にとっては、鬼門とも言える
場所。 

 「これで、安心して使ってもらえるかな?」 
 「はい。ありがとうございます。本当に」 

 心からの感謝をこめて言った・・・・・・が。 

 「ああ、礼には及ばない。見返りはきちんと要求するから」 
 「・・・・・・・・・・はぃ?」 

 やっぱり、裏があった。 


 


 これは家賃とでも考えて欲しい、と言われて、世界的に人気のある作家にしては、考えがせ
こくはないか、とも思ったが、一応聞いておく。 

 「・・・・・あの、いくらで?」 

 すると優作さんは、少しだけ真面目な顔をして言った。 

 「新一のことをね、頼まれてほしいんだ。新一は好奇心が強すぎて、抑えが効かない。それ
で、ほら。いまはあの通りだろう?」 

 言われて、どう答えようか、正直困る。
 思い浮かぶのは小学生の江戸川コナン。 

 「もちろん、わたしは君のことも新一と同じくらい大事だし、君の目的も尊重したい。だから、
君の生活のついでくらいでいい。新一が決定的に危険な状態に陥らないよう、君の許容範囲
内でいいから、気にかけておいて欲しいんだ」 

 その代わり、息子に気づかれないようにするなら、邸内のものを自由にしてくれて良い、とま
で言われて。 やっぱりこの人も父親なんだな・・・と、嬉しくなってしまったものだから。 

 「いいですよ。名探偵の知らないところで、実は、俺が名探偵の家に住んでるってのも、面白
そうだし♪」 

 一緒にいたずらをしかける仲間みたいに笑って、答えた。 





 こうして俺は、キッドの仕事の後とか気が向いた時なんかに、工藤邸で過ごすようになったの
だった。 もちろん、名探偵には気づかれてない。 ・・・・少なくとも、いまは。