怪盗部屋1




 それは、怪盗を継いでしばらく経ってからのことだった。
 休日の午後。俺は親父が遺した隠し部屋で昼寝をしていた。
 皺になるから止めようとは思ってはいても、キッドのマントにつつまって、この部屋で眠るのが
癖になりつつあった。
 ・・・親父が一緒に寝てくれていた昔に、戻ったような気になれるから。
 
 ―――ピンポーン
 
 玄関のベルが来客を告げて、意識が浮上する。
 お袋は買い物に行っていたので、キッドの部屋の存在を、パネルの親父の微笑に隠してか
ら、インターホンに答えた。

 「・・・はい?」
 「工藤です」
 
 ・・・これは、これは。
 驚いた。気づいたときには、既に庭に出て門を開けていた。

 「お久しぶりです。」
 
 「優作さん」と、親父の古い友人である人を、信頼をこめた笑顔と、ほんの少しの警戒心でも
って迎えた。





 「どうぞ、座ってください。コーヒーと紅茶と、どっちがいいですか?」
 「いや、できれば日本茶をもらえるかな。久しぶりの日本だ。ダメかい?」
 「いえいえ。とびきり美味く淹れますよ♪」

 ・・・なんて。
 いきなりの珍客に対してなら、充分、合格圏内の応対だろう。

  「どうぞ」

 すぐ飲める温度のお茶をテーブルの上に置く。

 「ありがとう。・・・ああ、美味いね」

 穏やかな笑顔で、ほっと息をつきながら言われて、嬉しくなった。

 「ありがとうございます♪・・・えっと、すみません、お袋いま買い物に出てて。もう少ししたら戻
ると思うんですけど」
 「ああ、いや、いいんだ。連絡もなしに来たわたしが悪いんだし。お母さんは元気にしてるか
い?」

 ・・・へぇ、いいんだ。ってことは、あれかな。やっぱりあのことで来たのかな。
 気づかれない程度に、俺は警戒を強くする。

 「元気ですよ。相変わらずです。優作さんたちは?」
 「はは、こちらも相変わらずさ。有希子も新一も元気すぎて時々困るよ。そうそう、新一はこの
前、クイーンセリザベスで君に逃げられたことを、随分悔しがってたなあ」

 予想していた以上に、さらりと言われてしまった。

 「・・・えぇと?何のことでしょう?」

 本当に何のことを言っているのかわからない、という風を装って、答える。が、あまり意味は
なさそうだった。この人が言った内容からして、自分がKIDであることは、いまさら確認するため
のものではなく、既に規定事項なんだ。

 「おや、はぐらかす気かい?素直じゃないなあ。そういう子には、お土産はあげないよ?」
 「・・・お土産?」

 何それ。
 
 「わたしの家にはKID専用の客室があってね、鍵は盗一と、わたしが持っていた」

 「お土産っていうのは、これ」と、胸ポケットから銀色の、古風な形の鍵をテーブルの上に置い
て言う。
 何、これ。すごく欲しい。
 
 「・・・わたしの言っていることの意味がわかるね?」

 はい、降参。いたずらが成功した時の様な笑顔で言われ、参った。

 「ブラックスターの時は、君もアレのいる海を泳ぐはめになって、大変だったろう?」

 一瞬アレを想像しかけて、怖くなったから、アレのことは慌てて思考から切り離して、言う。

 「時計台の時といい、ブラックスターの時といい、名探偵には酷い目に遭わされましたよ」

 もう、いいや。このいたずらには、親父も共犯みたいだし。
 ポーカーフェイスは捨てて、憮然として答えた。