いっしょに帰ろう1




 「紅子ちゃん、いっしょに帰ろう♪」 

 目の前に現われた少女に、私を取り囲んでいた男の子たちが、ざわめきたった。 
 
 (失礼な人たちね。)
 
 まあ、彼らの気持ちも、わからなくもないわ。 
 彼女はとても可愛らしい。 
 肩より少し長いくらいの髪はさらさらで、大事に手入れされているのがわかる。 鞄を両手で抱
えて、大きな瞳で「だめ?」と不安そうに聞いてくる姿には、私ですら庇護欲をかきたてられ
る。 

 「・・・良くてよ。今日は二人で帰りましょう。」 

 ふ、と笑って答えたそれは、案の定、あわよくば私にも彼女にも近づこうとしていた彼らの期
待に、反するものだったようで。 がっかりとした様子が窺がえる。 

 (まったく、本当に失礼な人たちね。) 

 そうは思ったけれど、ここは綺麗に微笑んで言ってやらねば、プライドにかかわる。 

 「そういうわけだから、ごめんなさいね、みんな。」 
 「ありがとう!紅子ちゃん♪ えっと、ごめんなさい、みんな・・・。」 

 パタパタと揺れる尻尾まで見えてきそうなほど、無邪気に喜ぶのは止めなさい、可愛いか
ら。 

 彼女のそんな様子を見て、いよいよ粘ろうとした彼らだったけれど、なんとか諦めさせて、彼
らが去って行ってから彼女に向き直る。 

 「それで・・・なんと呼べばよろしいの?」 

 『黒羽君。』 

 そこだけ声には出さずに聞くと、一瞬きょとんとした『彼』が、てへ、と笑った。 
 だから止めなさい、本当に可愛いのだから。 





 「また彼が来ているのね。よく来るわよね。今月に入って何度目かしら?」 
 「よく続くよねー。飽きないのかな?」 

 廊下を話しながら歩く。 彼の姿は少女のまま。 

 「・・・あなたは飽きたの?」 
 「んー?飽きないよ?ぶりっこしてる名探偵をつつくの楽しいし。いつボロがでるかなー、って
♪」 

 さすが、魔人を相手にいい根性ね。 

 「なら、今日に限って彼から隠れようとするのは何故かしら?」 
 「ちょっとね、今日は、待ち合わせ。忙しい人たちだから、待たせるわけには、いかなくて。」 
 「しかも、彼に探られるとまずい人たちなのね。」 
 「そういうこと♪」 

 なるほど? 
 さしずめ相手は、魔人のご両親、といったところかしら。 

 「あ・・・まずい。」 
 「あら。」 

 校門前に魔人が居るのが見える。 
 いっしょに居るのは、中森さんね。 

 (どうするの?) 

 横で一瞬立ち止まった彼に聞こうとしたけれど、彼はすぐに歩き出したから、中森さんには悪
いけれど、魔人の相手は彼女にまかせて通り過ぎることに決めたらしい。 
 二人の数メートル側まで来ると、二人の会話が聞こえてきた。 

 「コナン君、本当によく来るねー♪」 
 「うん!僕、快斗兄ちゃんのこと好きだから♪」 

 魔人の正体を知ってる身としては、いっそ寒々しいまでの『子どもらしさ』よね。 それを楽しめ
るのだから、黒羽君もたいしたものだわ。 

 「快斗ねー、青子には先に帰ってろって言ってたから、まだ校舎内に居ると思うよ。いっしょに
待ってようか♪」 
 「え、いいよぉ。今日は寒いし、青子姉ちゃん風邪ひいちゃうよ?」 
 「青子は大丈夫!二人で待ってれば時間が経つのも速いし。いっしょに快斗を驚かせちゃお
う!」 





 「・・・・・。」  

 彼の歩みが遅くなった。 
 ふぅ。 相変わらず、中森さんが絡むと弱いのね。 

 「ドッペルゲンガーでも出してあげましょうか?」 
 「いや、いい。」 

 まったく、仕様のない人ね。 

 「でも、急いでいるのでしょう?ここはいいから、あなたはお行きなさい。」 
 「悪い、紅子。」 
 「いいのよ。貸しにしておくから。」 

 ちょっとだけ嫌そうな顔をした彼と、二人の手前で別れる。 

 ふふ。 さて、何を請求しようかしらね? 
でも、それを考えるのは後で。 
 ・・・さて。 

 「どうしたの?中森さん。」 
 「あ、紅子ちゃん♪」 
 「・・・お姉さん?」 

 本当は魔人の光は私には強すぎて、少し辛いのだけれど。 一度、話をしてみたかったわ。 

 「こんにちは、ぼうや?」 
 「僕、江戸川コナン。お姉さんは?」 
 「小泉紅子よ。どうしたのかしら、誰かを待っているの?」 

 その、まっすぐな眼。 私が何者か、見極めようとしているのかしら? 
 でも、無駄よ。 いまの私には、隠すものなどないもの。 

 「コナン君、快斗を待ってるんだよね?紅子ちゃん、快斗見なかった?」 
 「あら。黒羽君ならもう帰ったみたいよ?待ち合わせがあるって、急いでいたわ。」 

 ほら、これは本当のことだもの。 

 「え〜!?なんだあ。」 
 「残念だったわね?」 
 「うん・・・。ちぇ〜!」 

 あら、本当に残念そう。 横に居る中森さんまで、がっかりしてる。 

 「コナン君は、黒羽君が好きなのね。」 
 「うん!僕、快斗兄ちゃんのこと、だ〜い好き!!」 

 本当に、本物の子どものよう。 
 でも、ごめんなさいね。 

 「そう・・・。それは、どうして?」 

 あなたのその仮面、少しだけ剥がさせてもらうわよ?