深い海の中の森




 「・・・武器は?」 

 俺の言葉を受けて、快斗の目が泳ぐ。 
 わかる。 
 何かを探している。 

 ・・・それから数秒。 
 
 「ぶき。き、き・・・キッドめがけて一直線な、中森警部♪」 
 「だー!!またそれかよ!!!」 

 いいかげん、俺を『ぶ』から解放してくれ! 




  
 きっかけは何だったのか、わからない。たしか俺は、居間のソファに座って、買ったばかりの
小説を読んでいたはず。そこへ快斗が、いつものように俺の足元に来て、床に座って、寄りか
かってきて。気がついたら・・・・・快斗と俺との、しりとりが続いていた。 
 そこまでは、いい。いや、本当にいいのかどうか問い詰められると、ちょっと困るんだが、この
際いいことにする。なんで俺が半ば意地でもって、あくまで名詞で返してるのに、快斗の方は文
章で返してくるのかってのも、いい。いや、本当に(以下略)。 
 問題は・・・・・。 

 「なんで、お前はそう何でもかんでも中森警部にもってくんだよ!」 
 「えぇー?不満?」 
 「てめぇ、俺が満足して続けてると思って、やってやがったのか?」 

 そう。さっきから快斗は、俺がどんなに苦労して返しても、その俺の苦労を嘲笑うかのような
軽やかさで、色んな中森警部を持ち出して返してくるのだ。  

 「いいじゃん。俺は考えてて楽しいし、新一も名詞レパートリーが増えるしで、良いことだらけ
♪」 
 「『ぶ』のレパートリーばっか増えても、嬉しくねえよ・・・。」 

 くそう。もういいかげん無いっての。 

 「ぶ、ぶ、ぶ・・・文房具!」 
 「グ○コのおまけな中森警部♪」 

 どんな警部だよ! 

 「ぶ・・・武家諸法度。」 
 「トイレで気絶してる中森警部♪」 
 「気絶させたこと、あんのか。トイレで。」 
 「警部にはないよ。」 

 ってことは、他の警官にはあるのか・・・。 

 「ぶ、文化の日・・・?」 
 「髭も可愛い中森警部♪」 

 (ああ、もう・・・。) 

 ―――――ぷちり。 

 ・・・・・あ。
 多分いま、俺の中で何かが切れた。 

 ああ、そうだよ、うん。俺は精一杯頑張った。むしろ、ここまで付き合ったことを褒めてもらい
たいくらいだ。俺はやった。やったんだよ。やりやがったんだよ、ちくしょう! 

 「・・・『ぶ』ばっかり・・・もう、嫌だ。お前が警部のこと好きなのは、悲しいことに、いままでの付
き合いで、嫌ってほど思い知らされてるんだよ!」 
 「・・・・・。」 
 「いいかげん俺の気持ちも察しろよ。これ以上は、無理だ。」 

 言った。言ってやった。やったけど、自分がかなり、情けない状況になってしまったことに、言
ってから気づいた。 

 やべぇ・・・どう挽回しよう。 

 「だ、だ、だ・・・。」 

 は!? 

 一瞬、頭がまっ白になってしまった。 

 快斗、お前、俺が言ったことの最後の『だ』から続けようってのか?ありえねぇ。いや、でも。
なにせこいつはIQ400。ありえる発想なのか!?くそ、きっとどうせ「ダミーを頑張って追跡して
くれる中森警部♪」とか続けやがるんだー!! 





 「だ・・・・・大好き、新一。」 

 え。 

 思わず、耳を疑った自分が悲しい。 

 でも、お前、いま・・・。 

 「・・・・・4・・3・・2・・1・・はい、時間切れー☆新一の負け♪」 

 ・・・・・。 

 負けた、ああもう、本当に負けた。 
 わずかにだが頬が赤くなってるこいつに、さっきの言葉が、こいつなりに結構覚悟して言った
んだろうってことがわかった。 
 それで俺は、たったそれだけのことに、ものすごく嬉しくなっちまうもんだから、本当に、こいつ
にだけは敵わない。 

 「試合に負けて、勝負に勝った気分だな。」 
 「俺は、どっちにも勝った気分。弱気な新ちゃんて、滅多に見れないもん♪」 
 「あれは、忘れろ。」 
  
 頼むから。 

 「嫌だ。あ、優作さんと有希子さんにも教えてあげようっと♪」 

 げ!! 

 「ばか!それだけは止めろ!!」 

 電話に向けて走り出した快斗を追う。しりとりの次は、鬼ごっこになってしまった。