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風邪っぴきにクマ SIDEコナン
今日は朝から気分が良い。 なんてったって、あいつに会える。
「〜〜〜♪」
「浮かれるのは良いけど、歌わないでもらえるかしら?」
「普通は言われること逆ですよね。」
なんて言われようと、気分が良いものは良い。
「コナン君、何か良いことあったの?」
「あ、さてはおめー、一人だけ美味いもん食いに行く気だろ?」
「元太君、またそれですか。」
ははは・・・、本当にな。
「でも、珍しいじゃない?あなたがここまで、あからさまに上機嫌なのって。」
灰原、おめーは俺をなんだと思ってんだよ。
「ちょっと、な。」
本当は、ちょっとどころじゃない。
今日は放課後、黒羽と会う約束をしてるから。 いつもは俺が江古田に乗り込んでるんだけ
ど、今日は待ち合わせだ。 “待ち合わせ”・・・会おう、という意志がお互いになければなりたた
ないんだから、結構な進歩じゃないか?
授業中、油断するとにやけてしまう顔を、立てた教科書で隠す。
ふ、早く放課後になりやがれ!
放課後に、なることはなった。 予定の時間通り。
なのに結局、ついて来たがる元太達をまくのにてこずって、公園に着く頃には予定を大幅に
オーバーしちまった。
あいつら、尾行のレベル上げたよな・・・。
「ごめん!快斗兄ちゃん、待ったでしょ!?」
「あ。よお、コナン♪」
大分待たせたはずなのに、黒羽の声からは怒ってるような感じはなかった。
良かった・・・と安心して顔を上げれば。
「・・・快斗兄ちゃん、何やってんの・・・?」
「んー?」
待ち合わせ場所を“小学生御用達”の、小さな公園(それより上の年代はあまり来ない)にし
て良かったと、心底思った。
「快斗兄ちゃんがおぶってる、それ、何?」
「クマのぬいぐるみ。結構大きいサイズの。」
そうだな、クマだな。 ・・・て、んなの、見りゃわかる!
「そりゃ、わかるけど・・・。なんでそんなの持ってるの?」
ああ、お前って可愛すぎ。 なんで似合うんだよ、そんなのが!
・・・でも似合うって自覚はしてねーんだろうなあ。 頼むから、本当にちっとでも自覚してくれ。
虫がよるだろう?
「これな、今日クリーニング終わって、連れて帰るとこだったんだ。俺が昔持ってたのが出て
きてさー。家の洗濯機でも洗えたんだろうけど、大事なものだし、やっぱりプロに任せた方がい
いと思って。お前待ってる間寒くて、試しにこうしてみたら暖かかったから♪」
連れて帰る、ね。 ぬいぐるみ相手に言うことも可愛いじゃねえか。 いっそ俺も連れて帰れ
よ。
くそ、クマ。 俺と代われ!
そう思ってクマを見ると、クマが見せびらかすように黒羽に張り付いているように見えて、面白
くなさ倍増だ。
「そのクマが、すごく偉そうに見えて嫌だ。」
「あ、あはははは!」
「そんなに笑うことないだろ!?」
「いや、でも。」
俺だって、子どもっぽい発言をしたとは思う。
や、俺のいまの見かけから考えたら、全然ミスマッチじゃないのか? それはそれで嫌だけ
ど・・・お前、笑いすぎだ!
「お前、俺の親父とおんなじこと言うのな!」
え?
「快斗兄ちゃんの?」
聞き返すと、黒羽の瞳がすごく優しいものになって、黒羽の首にまわされたクマの腕を撫でな
がら、話し始めた。
クマは、黒羽の親父さんがくれたものらしい。
そうか、だから俺には、こいつが黒羽を独占してるように見えたんだろうな。
黒羽と知り合って、こいつが親父さんの話をするのを何度か聞いて、そのたびに思い知らさ
れてた。 黒羽にとって、親父さんはいつでも特別なところにいるってことを。
「俺、こいつがすごい気に入ってさ、ずーっと離さなかったんだよね。そしたら親父が、『クマに
快斗をとられるとは思わなかった。クマも、それを鼻にかけてるように見えてしまう。』って☆」
いまも、親父さんの話をしてる黒羽は、すごく愛しい人を見てるときのような瞳で、けれどここ
ではない、どこか遠くを見てるようで。
なんだか、江古田の学園祭で初めて会ったときに、キッドの話をしてたときと、少し似てるか
もしれない。
いいな・・・と思った。 こいつに、こんなふうに大切な存在として想われてることが、すごく羨ま
しい。
俺だって、いつかそんな存在になってみせるけど。
それにしても。
「そんで、結局拗ねたまま、『いまからわたしは悪い魔法使いになる。』とか言って、こいつを
どこかに隠しちゃったんだよな。でも後でお袋にすごい怒られたみたいで、親父が俺に謝って
きたんだ。」
「なんか、小さい子みたいだね。快斗兄ちゃんのお父さんって・・・。」
きっと、黒羽がクマをお気に入りにしてたのは、親父さんがくれたものだったからだと思うんだ
けど。 それでもクマに妬いてたのか、親父さんは。
・・・まあ、俺も同じこと思うんじゃないかとは、思うけど。
「俺もさ、本当にしゅん、とした親父見て、これ以上親父を傷つけちゃいけない、なんて思って
さ。クマはもういいから、お父さんの方がうんと大好きだから・・・なんて言っちゃってたんだよ
ね。」
ちくしょう。 俺もそんなこと言われてえ。
黒羽の話を聞いて、いまも黒羽の首に腕をまわしてるクマの顔が、いよいよ憎らしく見える。
本当に、俺と代われよ、クマ。
「快斗兄ちゃん!そいつよりきっと、僕の方が暖かいよ!僕があっためてあげる!」
「それはだめ。」
なんでだよ!?
「俺、どうやら風邪ひいたっぽいんだよ。お前にうつして、蘭ちゃんに怒られるのは嫌だ。」
さっきとは一転して、待ち合わせ場所を公園にした自分が許せなくなった。
そうだよ、公園は外なんだよ。 いまは冬で。 待たせたら寒いんだよ!
待っててくれたのは嬉しかったけど。 すごく嬉しかったけど。
「何やってんだよ!?」
「コ、コナン・・・?」
「風邪っぴきなら、俺なんて待ってないで、とっとと家帰って寝てろよ!こじらせちまったら、ど
うすんだ!」
言ってから、子どもらしく言えなかったことに気づく。
「あ、その。えっと・・・。」
しまった。 いまので不審に思われたか?
「なんか、いいね。」
え?
「お前にこうやって怒られるのって、なんかいいな。愛を感じちゃうから、癖になっちゃいそう
♪」
黒羽がすごく嬉しそうに言う。 ・・・変に、思わなかったのか?
なんでお前はそう、そのままを受け止められるんだ。 ・・・俺なら無理だろうな。 多分、不審に
思う。 それで、裏を読もうとしちまうだろう。
探偵ならそうであって正しいとは思うけど、こいつのこういうところは、すごく好きだと思う。
「でも、そうだな。お前の言うとおり、今日は帰って休ませてもらうよ。悪いな、約束してたの
に。しっかり治ってから、埋め合わせするよ。どこ行きたい?」
「快斗兄ちゃんの家!」
「だぁめ。子どもは外で元気に遊ぶもんだぞ。・・・そうだな、映画は?」
「・・・それも屋内じゃん。」
黒羽の家に盗聴器なり、なんなり置いて、キッドが迂闊にこいつの行動覗けないようにしよう
と思ったんだがな。
ち・・・、まあ、いいか。
黒羽は映画を“デート”と言ったし! 俺と会うのは“デート”なんだと、しっかり認識してるって
ことだよな!?
手をつないで、朝よりさらに気分が良い。 クマもとりあえずは紙袋の中にしまわれちまった
し。
思わず口から出る鼻歌も、黒羽は何も言わずに聞いてくれてる。 ああ、やっぱり黒羽はい
い。
見てろよ、クマ。
俺はお前が妬くくらい、黒羽にとって大切な存在になってやるから。


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