|

月に吠える
月に吠える
彼の人への想いを夜に投げる
けれど届くはずもなく
闇に溶けることもない
月光に優しく刺され
あまく痛む
「快斗。」
自分を呼ぶ声に振り向く。 ここは工藤の家で、新一の部屋のテラス。
「いい加減、中へ戻れ。」
風邪ひくぞ、と言う新一の口からは、白い息が出てる。 そう言われてみれば、まあ寒いか
も?
でも。
「んー、まだ平気。もうちょっと居たい。」
だめ?と首を傾げて強請ると、新一は軽くため息をついた。
あ、また白い息。
「何をそんなに熱心に見てるんだ?」
新一がガウンを持ってきて、俺の肩にかけてくれた。 そのまま肩を抱かれる。 それじゃ新一
だけ寒いじゃん。
「これじゃ嫌だ。毛布持ってきて、一緒に包まろう?」
そう言うと、新一は優しく笑って、毛布を取りに戻ってくれた。 優しいなあ。
俺がそう言うと、照れて不機嫌そうな顔になるのも、好き。
「ほら。」
二人で、頭から毛布に包まる。 なんかカマクラみたいだね。
「で、何を見てたんだ?」
「月。」
「月・・・って、今日は新月じゃねえか。」
一応、確認するように空を見上げて、新一が言う。
「新月でも、月はあるじゃん。普通にしてると眼に見えないだけでさ。」
冗談っぽく、明るい表情をつくって言ってみたんだけど、通じなかったみたい。
あ、新一、本当に機嫌悪そうな顔。
「快斗、本当のこと言え。月のない空を見て、何を考えてた?」
う。
「・・・親父のこと。」
ああ、ほら。 本格的に不機嫌になった。
俺が親父の話すると、新一は大抵、機嫌悪くなるんだ。
新一いわく、『他の奴らなら、絶対勝つ自信があるけど、お前の親父の場合は別。』だからら
しい。
ちゃんと、新一と親父は俺のなかで、別々なところで特別って、言ってるんだけどなあ?
「ほら、俺にとってさ、キッドは俺じゃなくて親父なんだよ。」
「うん。それはわかってる。」
「キッドに月ってつきものじゃん。」
「まあ、そうだな。」
「だから俺は月を見ると、キッドだった親父を思い出すんだ。」
「・・・・・。」
「それでさ。今夜みたいに月の見えない空をみると、キッドだった親父じゃなくて、俺が子ども
の頃に知ってた親父だけを思い出すことができるんだ。」
「・・・・・・・・器用な脳だな。」
あはは、何だか新一らしい反応。
不機嫌そうな顔はもう何処かにいって、顎に手を当てながら考えてる。 俺の言ってることを理
解しようとしてくれてる。
すごく、嬉しい。
「ガキの頃さ、どんなんだったか忘れたけど、すげえ怖い夢見て。隣で一緒に寝てた親父に
泣きついたんだ。そしたらさ、親父が、こう・・・ぎゅーって抱いてくれて、俺が落ち着くまで、頭撫
でたり、背中さすったりしてくれた。長いツアー公演から帰った日だったと思う。疲れてたはずな
のにさ。」
いまでも鮮明に思い出せる。 自分の記憶力が優秀でよかったと、実感できる。
「そのときは親父の布団と、腕のなかで、夢のイメージより真っ暗だったのに、すごく暖かく
て、落ち着いた。月のない暗い空を見るとさ、そん時の真っ暗い記憶が浮かぶんだ。」
だから、月のない夜だって、俺は好き。 真っ暗な夜だって、大好き。
そう、言ったら。
突然、新一の腕の中に閉じ込められた。
「そいつは知らなかった。お前が監禁される趣味があったとは。」
「はっ!?な、なんで、そういうことになるんだよ!?」
俺の美しい思い出話から、どうやってそんな結論がでるんだよ!?
「だって、そうだろ。寂しい夜には、大好きな存在の腕に閉じ込められたいんだろ?早く言え
よ、そういうことは。俺はいつだって、お前を腕の中に閉じ込めて、俺だけでお前を埋めたいん
だぜ?」
・・・・・・・・・うわ!
すごいこと言われた。 自分の全身が赤くなってるのがわかる。
それなのに、そんなこと言った当の新一は、至極ご満悦な顔で俺を抱きながら俺の頭を撫で
てる。 すごく、優しい手。
知ってる。 いまの俺の話で、新一の側にいるのに、親父のことだけ考えてた俺を許してくれ
たこと。
たぶん、親父に対しては、新一が誰より対抗意識を持ってるのに、それでもこうして、俺の親
父に対する想いを大事にしてくれる。
ああ、本当に大好き。
「寂しいって言えば、こうやって抱きしめてくれる?新一の腕の中で、真っ暗な幸せ空間に浸
れる?」
「もちろん。それに言ったろ。別に寂しいときじゃなくたって、俺はいつでもこうしたいんだ
よ。」
「いつもは、さすがに困るなあ。学校とか遊びとか、仕事しに行ったりしたいし。」
「・・・・ちっ。」
あ、その舌打ちは本物だね? 怖いなあ。
それでも、こんなに想われてて嬉しい。 幸せだなあ。
うん、すごく幸せだ。
月に吠える
彼の人への想いを夜に投げる
君がうけとめてくれる
闇には溶けず
君という光に優しく刺され
あまく、懐かしく、痛む

|