風邪っぴきにクマ




 「あ〜・・・寒ぃ。」 

 のども痛いし、こりゃ風邪ひいたかな・・・? う〜ん、やっぱり一度家に帰って上着持って来る
んだったかな。 寒いよ〜。 いきなりこんなに寒くなるなんて、思ってなかった。 

 「でも、まぁいっか。あいつももうすぐ来るだろうし。」 

 今日は名探偵と放課後遊ぶ約束をしてて、珍しく俺が先に待ち合わせ場所の公園に着いた
んだけど・・・。 

 「早く来いよ〜、名探偵。うへ、息が白いや。」 

 もうすぐ着くんだろうとは思っても、やっぱりこのまま待ってるのは辛い。 
 なんか、暖まれそうな物持ってなかったかな、と思って脇を見れば・・・ 

 「あ♪いいもの持ってた♪」 

 懐かしくて、気持ちも物理的にも暖まれそうなもの、み〜つけた♪ 





 「ごめん!快斗兄ちゃん、待ったでしょ!?」 
 「あ。よお、コナン♪」 

 やっと来たか。 
 あれから10分くらい待って、ご登場。 必死に走って来たんだろうなあ。 肩で息をしてる。 よ
し、よし。 偉いじゃん♪ 

 「・・・快斗兄ちゃん、何やってんの・・・?」 
 「んー?」 

 お前の言いたいことはわかるけど、そんなあからさまに不審そうな目で見んな。 

 「快斗兄ちゃんがおぶってる、それ、何?」 
 「クマのぬいぐるみ。結構大きいサイズの。」 

 そう。 俺が防寒対策のためにおぶっているもの。 それはモコモコの、クマのぬいぐるみ。 
 そいつを背中からおぶって、両の手を俺の首にまわさせて、クマの頭は俺の肩に乗せてやる
と・・・とっても暖かい簡易マフラーのできあがり♪ 

 「そりゃ、わかるけど・・・。なんでそんなの持ってるの?」 

 なんでか、名探偵が不機嫌そうに聞いてくる。 
 そりゃあ、さー。 高校生の男が、公園で、でかいぬいぐるみ持ってりゃ変だとは思うけどさ、
そんな顔することないじゃん。 ちゃんと、まっとうな理由で持ってたんだぞ、これは。 

 「これな、今日クリーニング終わって、連れて帰るとこだったんだ。俺が昔持ってたのが出て
きてさー。家の洗濯機でも洗えたんだろうけど、大事なものだし、やっぱりプロに任せた方がい
いと思って。お前待ってる間寒くて、試しにこうしてみたら暖かかったから♪」 

 ほら、至極まともな理由じゃんか。 そう思わない? 名探偵? 

 「でも、なんか・・・。」 

 お? まだ不機嫌そう。 
 なんで? 

 「そのクマが、すごく偉そうに見えて嫌だ。」 
 「あ、あはははは!」 
 「そんなに笑うことないだろ!?」 
 「いや、でも。」 

 面白いじゃん! 

 「お前、俺の親父とおんなじこと言うのな!」 
 「快斗兄ちゃんの?」 
 「そ♪これくれたの、親父なんだ♪俺、こいつがすごい気に入ってさ、ずーっと離さなかったん
だよね。そしたら親父が、『クマに快斗をとられるとは思わなかった。クマも、それを鼻にかけて
るように見えてしまう。』って☆」 

 あのときの親父、すごく拗ねてて、子どもっぽくて、なんだか可愛かったんだよなー。 

 「そんで、結局拗ねたまま、『いまからわたしは悪い魔法使いになる。』とか言って、こいつを
どこかに隠しちゃったんだよな。でも後でお袋にすごい怒られたみたいで、親父が俺に謝って
きたんだ。」 
 「なんか、小さい子みたいだね。快斗兄ちゃんのお父さんって・・・。」 

 お、いいところ突くな、名探偵♪ 
 そうそう、親父は常に紳士で、でも子どもみたいなところもあって、本当お茶目で格好良かっ
たんだから♪ 

 「俺もさ、本当にしゅん、とした親父見て、これ以上親父を傷つけちゃいけない、なんて思って
さ。クマはもういいから、お父さんの方がうんと大好きだから・・・なんて言っちゃってたんだよ
ね。」 

 俺ってなんて良い子だったんだろう♪ 
 クマは親父の隠した部屋にあった。 
 俺が見てないキッドとしての親父を、こいつは見てたのかな。 
 そう思うと、あの頃とは別な気持ちで、こいつを手放せなくなる。 

 「そうなんだ・・・。でも、快斗兄ちゃん!そいつよりきっと、僕の方が暖かいよ!僕があっため
てあげる!」 
 「それはだめ。」 
 「なんで!?」 
 「俺、どうやら風邪ひいたっぽいんだよ。お前にうつして、蘭ちゃんに怒られるのは嫌だ。」 

 多分、熱も少しだけどあるし。 ここはきっぱりとご辞退しなくては。 
 と、“毅然と断れる、少し大人な俺”を見せたのに。 

 「何やってんだよ!?」 

 名探偵に怒られてしまった。 

 「コ、コナン・・・?」 
 「風邪っぴきなら、俺なんて待ってないで、とっとと家帰って寝てろよ!こじらせちまったら、ど
うすんだ!」 

 おお、お前、いいのか? 俺の前で素になっちまってるぞ? 

 「あ、その。えっと・・・。」 

 あ、気づいた。 
 でも、まあ。 

 「なんか、いいね。」 
 「え?」 

 うん。 

 「お前にこうやって怒られるのって、なんかいいな。愛を感じちゃうから、癖になっちゃいそう
♪」 
 「・・・なに、言ってんだよ。」 

 でも、キッドの時には、こういう名探偵って見れないし。 心配して言ってくれてるのがわかるか
ら、やっぱりいいよ♪ 

 「でも、そうだな。お前の言うとおり、今日は帰って休ませてもらうよ。悪いな、約束してたの
に。しっかり治ってから、埋め合わせするよ。どこ行きたい?」 
 「快斗兄ちゃんの家!」 
 「だぁめ。子どもは外で元気に遊ぶもんだぞ。・・・そうだな、映画は?」 
 「・・・それも屋内じゃん。」 

 いいの。 俺の家は見せるわけにはいかないし。 

 「まあ、まあ。いいじゃん、映画!デートの基本でしょ?」 
 「え?」 

 え?
 なんか名探偵の顔赤くないか? 俺の風邪、うつしちゃったかな? 

 「コナン?」 
 「あ、いや。そうだね!いいよね、映画!!」 

 あ、なんだ。 なんともなさそう。 
 良かった。 風邪うつしちゃったか、俺の冗談で怒らせちゃったのかと思った。 
 怒るどころか、なんだかものすごく上機嫌になったみたいだ。 芸術的なまでに調子っぱずれ
な音程で、鼻歌らしきものまで歌ってる名探偵と、手をつないで帰る。 クマは歩くのには邪魔に
なっちゃうから、紙袋の中に戻ってもらう。 
 クマが居たときよりは、首もとは寒くなっちゃったけど、名探偵とつないでる手は暖かかっ
た。 
 ・・・うっかりカラオケに誘う、なんてしなかった自分に乾杯だ。 うん。